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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1783号 判決 1968年3月11日

東京都中央区京橋一丁目一番地

控訴人

株式会社 小西光沢堂本店

右代表者代表取締役

小西清平

右訴訟代理人弁護士

金原藤一

福井秋三

青柳洋

山本嘉盛

丹篤

同都千代田区大手町一丁目三番地

被控訴人

東京国税局長

志場喜徳郎

右訴訟代理人弁護士

仁科哲

右指定代理人

坂井正夫

千木良志気雄

右当事者間の昭和三七年(ネ)第一、四八三号審査決定取消請求控訴事件につき、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、控訴人の昭和二十二年十二月一日から昭和二十三年十一月三十日までの事業年度分法人税に関し、被控訴人が昭和三十年十二月二十一日付で控訴人の所得金額を二百十三万九千二十三円とした審査決定のうち所得金額八十三万千四百八十八円を超える部分はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並に証拠の提出、援用、認否は次の点を附加するほか原判決事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する。

(被控訴人の主張)

一、被控訴人は控訴人が得意先勘定として負債に計上した金額のうち百万三千六百九十六円を売上計上洩(架空負債)として所得金額に加算したのであるが、この点に関する主張を明らかにするため、控訴人得意先勘定に計上された架空負債に関する税務計算上の否認(所得金額に加算)、認容(所得金額より減算)の内容を次に附演する。

(一)  本件事業年度(自昭和二十二年十二月一日至昭和二十三年年十一月三十日)。

本件事業年度終了時現在において、被控訴人が控訴人の得意先勘定中百万三千六百九十六円を架空負債として否認し、売上と認め益金に加算したことは前述のとおりである。

(二)  自昭和二十三年十二月一日至昭和二十四年十一月三十日事業年度。

当事業年度終了時現在においては被控訴人の調査したところ、右の架空負債計上額は百十三万三千六百九十五円である。

しかし控訴人の計算はその帳簿残高を前期から引き継いでおり前期係争事業年度において被控訴人の否認した架空負債計上額を修正していないので、その期末計算額には前期(係争事業年度)計算において益金に加算した百万三千六百九十六円が含まれることになるが、この金額はすでに前期において課税済であるから、同額の繰越利益金を包含していることになる。

したがって、被控訴人は当期の更正処分において期末架空負債計上額百十三万三千六百九十五円を益金に加算すると同時に当期の所得とはならない繰越利益金である前期において否認した百万三千六百九十六円を減算したのであって、この結更当期所得金額の増加額は、右架空負債計上額の当期純増額十二万九千九十九円と一致する。

(三)  自昭和二十四年十二月一日至昭和二十五年十一月三十日事業年度。

(二)  と同様に当期末現在の架空負債計上額九十八万九千七百六十円を益金に加算すると同時に前期に加算した百十三万三千六百九十五円を減算した結果、当期の所得金は十四万三千九百三十五円減少することとなる。

(四)  自昭和二十五年十二月一日至昭和二十六年十一月三十日事業年度

当期未現在架空負債計上額は前期末の額に変動がなかったので本来は同額を加算減算すべきであるが、所得金額には影響がないので省略した。

(五)  自昭和二十六年十二月一日至昭和二十七年十一月三十日事業年度。

当期中に控訴人は繰越した架空負債計上額を益金に算入したので、同金額は(二)において説明したとおり控訴人自ら確定申告に際し、減算して申告してきたので京橋税務署長は控訴人の計算を認容した。

以上(一)ないし(五)の経過を一覧して示せば別表掲記のとおりである。

これを要するに、各事業年度の加算、減算額を通算すれば零となり、問題はどの事業年度の益金を構成するか、という期間計算の問題に帰着する。そうだとすれば、本件架空負債はそれが新たに計上された事業年度の益金(本件にあっては売上金となるべきものが前受金の如く記帳されたことによる)となるべきことが明らかであろう。しかもこのことは控訴人自体昭和二十三年十二月一日開始事業年度以下四事業年度における右の計算を争わないのであるから、疑いのないところである。

二、控訴人の主張によれば、控訴会社では昭和二十二年十二月一日から昭和二十三年十一月末までの間得意先勘定の伝票を五日ないし十日分位づつ集計して総勘定元帳得意先口座(甲第二十七号証)に記帳され、同時にその内訳を示す補助簿である得意先勘定の各得意先口座(控訴人は、この帳簿はルーズリーフ式のもので清算ずみのものは既に廃棄し現存しているのは甲第二十三号証の一ないし七のみであるとのことである)に記帳されることになる。しかしながら、右総勘定元帳得意先勘定記載額は得意先勘定に入金すべきでなかったものが包含されているものであって、真実を表示してはいない。その原因は、控訴人が当初の伝票の作成を誤ったことによるものであって、通常の現金売上について、通常の売上伝票を作成し売上として計上すべきところ、誤って得意得先勘定入金票(甲第二十六号証)を作成し、これに基づき簿記所定の手続を経て決算を誘導したためである。従って、伝票を再計算すれば前示甲第二十七号証の総勘定元帳得意先勘定記載額と一致することは当然であって、そのことから控訴人主張が正当であるとの論拠とはなり得ない。

そこで被控訴人は右得意先勘定記載額は真実を表示していないものと認め、伝票より実際に転記されている各得意先補助簿(甲第二十三号証の如き様式とは異なる帳簿)の各口座の残高を基礎として実在額を求めようとして当時の社長小西孝信と協議した結果乙第四号証の二ないし五の提出を得たもので、その集計により貸方一万七千三百四円、借方一万三千九百六十四円を算出し差引貸方残三千三百四十四円となったことはさきに述べたとおりである。

(控訴人の主張)

一、控訴人が得意先勘定として負債に計上した百万七千三十六円の数額が真実であり、決して架空のものでもなく、また作為されたものでもないことは、次の事実によって明らかである。

すなわち、得意先勘定は総勘定元帳(甲第二十七号証)中に得意先勘定として明らかに記帳されているところであり、又、前社長小西孝信が存命中詳しく集計して甲第二十一号証(昭和二十三年事業年度得意先勘定内訳明細表)として残されている。更に控訴人は当審において本件係争事業年度の伝票全部を摘出して集計した結果(第甲二十四号証、同第二十五号証)は昭和二十三年十一月末当時の預り金百万七千三十六円が算出され、前記総勘定元帳の数額と一致していることである。

尤も控訴人が得意先別の入金及び送金を整理して記載していたルーズリーフ式帳簿は清算ずみの際その都度廃棄して現在数葉(甲第二十三号証の一ないし七)しか残存していないので右帳簿によっては昭和二十三年十一月末当時の預り金残額を明示することはできない。ところで被控訴人は本件事業年度終了時ではなく昭和二十七年七月調査当時残存していたルーズリーフを拾い上げてこれにより貸方残三千三百四十円のみを認めてその余の百万三千六百九十六円を売計上洩として否認したのであって、まことに一方的な認定であり、真実に反するものである。

二、被控訴人の前示主張によれば、本件事業年度末において百万三千六百九十六円の架空負債であり、翌年度末の架空負債は百十三万三千六百九十五円であるが、その中には前年度の右額が引き継ぎ含まれているから、百十三万三千六百九十五円を益金に加算して百万三千六百九十六円を減算したというのであるが、それを二重課税を避けるためには当然のことである。そしてこの昭和二十四年十一月末における右架空負債があるということは、本件係争事業年度の架空負債の外に別個に架空負債が十二万九千九百九十九円計上されたと考える外はない。ところが昭和二十五年十一月三十日現在も昭和二十六年十一月三十日現在も架空負債は九十八万九千七百六十円であるという。このことは換言すれば一旦架空負債として否認されたものが引継がれた後の年度においてはその一部が架空負債ではなくなったということになるのであるが、何故に減るのであるか、到底理解し得ないところである。

また、被控訴人は、本件事業年度分の架空負債否認額百三千六百九十六円と九十八万九千七百六十円との差額については、昭和二十六年十二月一日から昭和二十七年十一月三十日事業年度以前の事業年度において利益金から除算され税務当局より是認されている、というのであるが、右の架空負債否認額百万三千六百九十六円は、被控訴人が昭和二十七年七月頃に調査を行って、昭和二十八年十二月更正して通知してきたものである。これによれば、本件係争事業年度の架空負債として否認した右百万三千六百九十六円と九十八万九千七百六十円との差額を、昭和二十七年以前の事業年度において益金から減算したなどということはあるべきではない。

これを要するに被控訴人の主張は、作為した数字を合理的にみせかけようとするものであって到底信用し得ないものである。

三、なお、棚卸資産の評価については、原価法、売価還元法、その他の評価方法があり、その選択が納税者に任せられているとしても一旦採用した評価方法を変更することは税法上禁止しているところである。それは評価方法を変更することによって、故意に棚卸資産を増減し、以て利益を増減しようとするのを防止する趣旨に外ならない。しかるに、本件においては、税務当局自らが税法の禁止している筈の評価方法変更を敢てして、以て利益の計上を多額にし徴税せんとしているものであって、まことに不当なものと謂うべきである。

(証拠関係)

控訴代理人は、新たに甲第二十二号証の一、二、同第二十三号証の一ないし七同第二十四号証の一ないし二百三十八(控訴会社に存する本件係争事業年度中の得意先勘定入金票を菊地義興が転記集計したもの)、同第二十五号証の一ないし四(菊地義興が右入金伝票に基づき月毎に集計して作成した表)、同第二十六号証の一ないし二百八十四(但し百十から百九十九までは欠番)、同第二十七号証、第三十号証の一ないし四、同第二十八号証、同第二十九号証、第三十号証の一、二を提出し、当審における証人飛田俊男、同中村由夫、同加藤五兵衛、同小西よし子の各証言を援用し、被控訴代理人は右甲号証中第二十二号証ないし同第二十五号証(枝番を含む)の成立は不知、その余の成立は認めると述べた。

理由

当裁判所は当審における新たな資料を斟酌するも控訴会社の昭和二十二年十一月三十日から昭和二十三年十一月三十日までの事業年度分法人税に関し被控訴人が昭和三十年十二月二十一日付で控訴会社の所得金額を二百十三万九千二十三円とした審査決定は相当であると判断するものであって、その理由は次の点を付演するほか原判決理由の説示(原判決書十九枚表二行目から二十九枚裏三行目まで、なお右説示中更正決定とあるを更正と訂正する)を引用する。

一、(一)控訴人は得意先勘定として負債に計上した百万七千三十六円が真実であることの根拠として、本件係争事業年度中の得意先勘定入金伝票を集計して総勘定元帳得意先口座(甲第二十七号証)としてその貸方、借方、差引額の各欄に記帳し、この集計の結果は前示負債額が計上されたこと、かつ当審係属中において、控訴会社に現存している本件係争事業年度の伝票集計の結果からも前記総勘定元帳の数額と一致していることによる、と主張する。なるほど甲第二十四号証、同第二十五号証(右各号証の成立については争があるが、その争をさし措くとして)同第二十七号証によれば控訴人主張のとおり得意先勘定の金額が夫々一致することを確認できるが、しかし、そうだからとて右金額が真実の得意先勘定であるとの論拠とはなり得ない。さきに認定したとおり控訴会社は通常の現金売上について通常の売上伝票によるべきところを誤って得意先勘定入金票を作成し、これによって前記総勘定元帳得意元口座等に記帳し決算を誘導したものであることは当時の社長小西孝信自身認めるところであり、これによれば、右伝票の作成を誤ったことにより売上代金収入金が得意先勘定の入金として処理された控訴人の総勘定元帳得意先勘定は真実の姿を表示していないものと謂うことができる。右のことは次の事実によっても明白である。すなわち、右帳簿の基となったとみるべき伝票中の甲第二十六号証の三十八には「五十円以下分」六十二円と記されており、同号証の四十七、六十七、八十一、八十七等計十五枚には「合せ合計」又は「合せ現収計」のように記載されているが、これ等の入金原因は何であるか、また得意先補助簿の記載に際しては如何なる得意先口座に幾何づつ転記したのか全く理解に苦しむところであって結局これ等の入金はさきに記したとおり得意先勘定の入金となるべき筋合のものではなく、現金売上として記載されるべき性質のものであったと解するほかはないからである。

(二) また、控訴人は被控訴人主張の本件事業年度末である昭和二十三年十一月三十日現在における得意先の貸方残三千三百四十円は被控訴人調査当時(昭和二十七、八年当時)に残存しているルーズリーフ式帳簿(清算ずみのものは随時廃棄することになっている)から摘出して算出したものであるから真実を示してはいない旨主張する。しかし控訴会社が各得意先毎にその明細を記録して総勘定元帳の補助簿たるべきもの(商業帳簿)を随時除去して廃棄するというような不合理な経理方式を採用するとは考えられないところであり、現に控訴会社にはその主張の如き帳簿とは別に綴込式の得意先補助簿が存在していたことは原審における谷口、松本、及び中村各証人の証言中からも窺われるところである。そして、被控訴人が架空負債を否認した根拠は、本件事業年度所得金額調査に際して社長亡小西孝信が担当中村調査官に提出した書類(乙第四号証の二ないし五)に基づき算出したものであることはさきに認定したとおりであるから、控訴人の右主張は採用するを得ない。当審における証人小西よし子のこの点に関する供述部分は真実に合致したものとは認め難く、他に右主張を裏付けるに足る資料はない。

(三) 而して被控訴人において、控訴人が得意先勘定として負債に計上した金額のうち百三千六百九十六円を売上計上洩(架空負債)として所得金額に加算(否認)したが、その後の四事業年度において加算、減算した経過は別表記載のとおりであり、右の計算については控訴人の明らかに争わないところである。これによれば加算、減算額はこれを通算すれば零となり、結局どの事業年度の益金に計上すべきかという問題に帰着する。この観点よりみるも、さきに認定したとおり売上金となるべきものを前受金として計上されたことによる負債はそれが計上された本件係争事業年度の益金(売上金)となるべきことは明らかである。

なお控訴人は昭和二十五年十一月三十日現在(昭和二十五年事業年度末)の架空負債額が前年事業年度末の架空負債額より十四万三千九百三十五円減少している点を捉えて一旦架空負債として否認されたものがその後の年度において一部架空負債でなくなる筈はないと論難するが、被控訴人において当期の控訴人の所得金のうちから右金額を減額していることは別表記載によって明らかであるから何等異とするには当らない。

また右の所得金から減算したのは、控訴人主張の如く昭和二十七年以前ではなく原処分庁(京橋税務署長)が本件係争事業年度の金額を更正した後(昭和二十八年十二月三十一日)であることは成立に争のない甲第五ないし第十号証によって認められるからこの点の控訴人の非難も根拠がない。

二、法人の事業年度終了の時において有する棚卸資産の価額(損金の額に算入する金額を算定する場合)の評価については命令で定める評価方法のうちいずれか一を選定しその方法によるべく、その評価方法を変更することは原則として禁止されていることは控訴人主張のとおりであるが、右の如く棚卸資産の評価方法が法定されたのは昭和二十五年四月一日以降のことに属し本件事業年度においては右法条の適用がなかったものであり、しかも控訴人主張の被控訴人において棚卸資産の評価方法を敢て変更し以て利益の計上を多額にし徴税しようとする意図は何等認められないことこの点に関する前示原判決説示によって明らかであるからこの点の控訴人の主張も採用の限りではない。

当審における証人小西よし子は棚卸資産の価額についての原審認定に反する供述をしているが、当裁判所の採用しないところであり、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上のとおりであるから本件控訴は理由がなく原判決は相当であるから民事訴訟法第三百八十四条第一項によりこれを棄却し、当審における訴訟費用の負担につき同法第九十五条第八十五条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 毛利野富治郎 裁判官 加藤隆司 裁判官平賀健太は転補につき署名することができない。裁判長裁判官 毛利野富治郎)

別表

<省略>

注 △印は減算を示す。

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